まず、正直な見立てから
従業員10名ほどの会社で、11年ひとりIT担当をしています。
「あなたが急にいなくなったら、会社はどうなりますか」と聞かれたら、私の答えはこうです。
たぶん、意外と何とかなります。
自分の価値を低く見ているわけではありません。11年やってきて、そう判断しているという話です。
なぜそう思うのか。そして、そう思っているのに、なぜ引き継ぎ資料を作っているのか。 その話を書きます。
なぜ「何とかなる」と思うのか
理由は3つあります。
① 特殊なものを作っていないから
うちの会社にあるのは、既製品のサービスとソフトです。私が自分で組んだ複雑なシステムはありません。
10人の会社では、買ってきて使えるようにするのが仕事です。中身がブラックボックスになるような作り込みは、そもそもしていません。
私にしか触れないものを作らなかった——これは結果的に、正しい選択だったと思います。
② 私がやってきたことは、調べれば分かるから
このブログで何度も書いていますが、私の仕事の実態はこれです。
分からないことは、調べればだいたい書いてある。
11年前、私は何も知らない事務職でした。フォーマットのやり方も知りませんでした。それでも調べてやってきました。
私が調べてできたなら、次の人も調べればできます。 そこに特別な才能は要りませんでした。
③ 私自身が、引き継ぎゼロで始まったから
これが一番の根拠かもしれません。
私の前に、IT担当はいませんでした。 資料もマニュアルも、教えてくれる人もいませんでした。
そして、それでも11年回りました。ゼロからでも何とかなることを、自分で証明してしまっています。
それでも、引き継ぎ資料を作っています
「何とかなる」と思っているのに、資料は作っています。矛盾しているようですが、理由ははっきりしています。
私が味わった苦労を、次の人にさせたくないからです。
何とかはなります。でも、そのために何ヶ月もかかりました。
- 何のサービスに契約しているか分からず、メールを掘り返した
- 誰が何のパソコンを使っているか、把握するまで時間がかかった
- 前任者しか知らないパスワードがあり、手も足も出なかった
この時間は、資料が1枚あれば要らなかった時間です。
「何とかなる」と「スムーズに引き継げる」は、まったく別の話です。
何を残しているか
残しているのは、この4つです。
| 内容 | なぜ必要か |
|---|---|
| 台帳 | 誰が何のパソコンを使っているか |
| 手順書 | 入社・退職など、決まった作業の流れ |
| 契約先 | 何に、どこに、いくら払っているか |
| パスワード | 後述します。これが最重要 |
立派な文書ではありません。表とチェックリストが数枚あるだけです。
以前も書きましたが、立派な仕組みは続きません。 続くものだけが、いざというときに残っています。
唯一、「調べても分からない」もの
ここが、この記事で一番伝えたいことです。
技術的なことは、調べれば分かります。手順も、時間をかければ再現できます。契約先も、請求書を辿れば判明します。
でも、パスワードだけは違います。
どれだけ調べても、絶対に出てきません。
私は実際に、それで詰みました。前任者しか知らないパスワードがあり、社内の誰も、そのサービスに入れませんでした。
- 中身を確認できない
- 設定を変えられない
- 解約すらできない
調べる能力があっても、突破できません。 これだけは、人から人へ渡すしかない種類の情報です。
だから、「これだけは残さないとまずい」と聞かれたら、迷わずパスワードと答えます。
どこに置いているか
私はクラウド上に置いています。
理由は単純で、自分のパソコンの中にあっては意味がないからです。
私が突然いなくなる場面を想像してください。そのとき、私のパソコンは誰が開けるでしょうか。
- 起動パスワードが分からない
- そもそも手元にない可能性がある
- リース返却されていたら、もう中身はない
引き継ぎ資料が、引き継げない場所にある。 これでは意味がありません。
「自分がいなくても、他の人が辿り着ける場所か」——置き場所は、それだけで決めています。
(ただし、パスワードのような情報をどこにどう保管するかは、扱いに注意が必要な話です。私も今のやり方がベストだとは思っておらず、見直しを検討しています)
これは「会社のため」ではありません
最後に、動機の話を書きます。
引き継ぎ資料を作るのは、会社のためというより、次に座る人のためです。
11年前、何も分からない状態で放り込まれた人間として、あのときの心細さを覚えています。 誰にも聞けず、何がどうなっているかも分からず、それでも「詳しい人」として扱われる。
同じ思いを、次の人にさせたくない。
それだけです。会社への貢献という言い方も間違いではありませんが、正直な気持ちはこちらのほうが近いです。
まとめ
- 私がいなくなっても、たぶん何とかなります。特殊なものを作っていないので
- それでも資料を残すのは、次の人が同じ苦労をしないためです
- 残しているのは台帳・手順書・契約先・パスワードの4つ
- 調べても絶対に分からないのはパスワードだけ。ここが最重要です
- 置き場所は、自分がいなくても他の人が辿り着ける場所に
引き継ぎ資料は、辞めるときに作るものではありません。
いつ何があるか分からないので、今あるものを、今書いておくしかありません。私も、まだ完璧ではありません。
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