「詳しい人がいないから」で始まる人へ
ある日、上司に言われます。
「詳しい人、いないから」
こうして、専門知識のない人が会社のIT担当になります。研修もなければ、引き継ぎもない。マニュアルもない。
私がそうでした。
2015年のことです。私は教育学部を出た事務職で、Excelの関数が使える程度でした。前任者はいませんでした。相談できる人も、社内に一人もいませんでした。
あれから11年、従業員10名ほどの会社で、ひとりでIT担当をしています。
この記事では、あのときの自分に教えたかったことを書きます。同じ状況の方の、最初の道しるべになれば嬉しいです。
順番を間違えると、後で必ず詰みます
最初にお伝えしたいのは、やる順番が大事だということです。
IT担当になると、いきなり「パソコンが動かない」「メールが送れない」と呼ばれます。目の前の火を消すだけで、一日が終わります。
でも、それを続けていると、半年経っても会社の全体像が分からないままになります。そしてある日、大きなトラブルが起きて、初めて「何も把握していなかった」と気づきます。
だから、火消しと並行して、最初の1〜2ヶ月で「把握」を進めてください。
順番は、この5つです。
1. 何のサービスに契約しているか、洗い出す
これが最優先です。
私の会社では、何に契約しているのか、社内の誰も知りませんでした。
- どんなサービスを使っているのか
- 毎月いくら払っているのか
- いつ更新が来るのか
- 誰の名義で契約しているのか
全部、分かりませんでした。
私がやったのは「メールを掘り返す」でした
台帳もマニュアルもなかったので、過去のメールを片っ端から検索しました。
「請求」「ご契約」「更新」「お支払い」——こうした言葉で会社のメールを検索していくと、契約しているサービスが1つずつ出てきます。
地味な作業です。でも、これが一番確実でした。
(経理の方がいる会社なら、請求書や引き落としの履歴を見せてもらうほうが早いかもしれません。私の場合はメールのほうが情報が揃っていました)
分かったことは、必ず書き出す
出てきた情報は、その場で表にしてください。
| サービス名 | 用途 | 月額 | 更新月 | 契約名義 |
|---|
これを作らないと、また同じ作業を繰り返すことになります。
2. アカウントとパスワードを、1か所にまとめる
次は、IDとパスワードの集約です。
小さい会社では、これがバラバラになっています。前任者の頭の中、誰かの手帳、机の付箋、メールの本文——あちこちに散っています。
これを1か所に集めてください。集めるだけで、仕事の負担が大きく減ります。
正直に書きますが、私は表計算ソフトで管理しています
そして、これはベストなやり方ではありません。
表計算ソフトでのパスワード管理には、はっきりしたリスクがあります。そのファイルが1つ漏れれば、会社のすべてのサービスに入られてしまうからです。パソコンの紛失、メールの誤送信、退職者によるコピー——きっかけはいくらでもあります。
分かっていながら、そのままにしてきました。同じ状態の方は、たぶん少なくないと思います。
それでも、まず集めることが第一歩です。 バラバラのままよりは、はるかにマシです。
そのうえで、専用のパスワード管理ツールへの移行を検討してください。私自身、今まさに移行を考えているところです。その過程は、別の記事で書きます。
3. パソコンを誰が使っているか、台帳にする
3つ目は、パソコンの管理です。
会社に何台あるのか。誰が使っているのか。いつ買ったのか。リースなのか購入なのか。保証は残っているのか。
これが分かっていないと、故障したときも、人が辞めるときも、毎回ゼロから調べることになります。
私のやり方:一人1台、IDで管理
私の会社では、一人1台と決めて、それぞれのパソコンにIDを振って管理しています。
10人規模なら、これで十分です。高価な管理ツールは要りません。表を1つ作れば足ります。
| ID | 使用者 | 機種 | 購入日 | 備考 |
|---|
大事なのは、正確さよりも「あること」です。 完璧を目指さず、まず作ってしまってください。
4. ホームページとドメインの契約先を確認する
ここからは、後回しにされやすいのに、事故が起きると大きい項目です。
会社のホームページは、たいてい3つのものがセットになっています。
- ドメイン(
〇〇.co.jpなどの住所にあたるもの) - サーバー(ホームページの置き場所)
- 制作会社(作った会社)
問題は、これらの契約先がバラバラで、しかも誰も把握していないケースが非常に多いことです。
そして、こういう事故が起きます。
- ドメインの更新通知が、退職した人のメールアドレスに届いていた
- 誰も気づかないまま、ある日ホームページが消える
- 制作会社と連絡が取れず、内容を更新できない
一度失ったドメインは、他人に取られてしまうと戻ってきません。
最低限、この3つを確認してください。
- ドメインをどこで契約しているか、更新はいつか
- サーバーをどこで契約しているか
- 更新通知が、今も読めるメールアドレスに届いているか
3つ目が特に見落とされます。通知が届いていなければ、無いのと同じです。
5. バックアップが「本当に動いているか」確認する
最後は、バックアップです。
ここで大事なのは、「バックアップを設定する」ではなく「本当に動いているか確認する」という点です。
小さい会社でよくあるのが、これです。
バックアップの設定はしてある。
でも、3年前から止まっていた。
設定した本人が辞めていたり、容量がいっぱいで止まっていたり、外付けハードディスクが壊れていたり。動いているつもりが、一番危険です。
確認することは2つだけです。
- 最後にバックアップが取れたのはいつか(日付を見る)
- 実際にファイルを1つ、戻せるか試す(これが本番です)
戻せないバックアップは、無いのと同じです。試すのは1ファイルで構いません。
逆に、最初はやらなくていいこと
5つ挙げましたが、やらなくていいことも書いておきます。焦っているときほど、間違ったところに時間を使ってしまうからです。
① 資格の勉強
私は11年間、無資格でやってきました。資格の勉強より、目の前の会社の状況を把握するほうが、何倍も役に立ちます。
② 完璧なマニュアル作り
最初から立派な資料を作ろうとすると、必ず途中で止まります。表が1枚あれば十分です。
③ いきなり新しいツールを導入する
今あるものを把握する前に新しいものを入れると、混乱が増えるだけです。導入は、全体が見えてからで遅くありません。
まとめ
引き継ぎゼロでIT担当になったら、最初の1〜2ヶ月で、この5つを進めてください。
- 何のサービスに契約しているか洗い出す(メールを掘り返す)
- アカウントとパスワードを1か所にまとめる
- パソコンを誰が使っているか台帳にする
- ホームページとドメインの契約先を確認する
- バックアップが本当に動いているか確認する
全部、特別な知識は要りません。 調べて、聞いて、表に書き出すだけです。私も、そうやって始めました。
最初は不安だと思います。でも大丈夫です。11年やってきて言えるのは、分からないことは、調べればだいたい書いてあるということです。
ひとりでも、何とかなります。
あわせて読みたい
- 会社が何に契約しているか、社内の誰も知らなかった|11年経った今も、実は全部わかっていません
契約の洗い出しで、実際に何が出てきたか - データが消えかけて、業務が止まった話|11年で一番ヒヤッとした日
バックアップを見直すきっかけになった出来事 - 社員が退職するとき、IT担当がやることチェックリスト|10人の会社の実例
退職者が出たときのチェックリスト
