退職対応は「準備できる」数少ない仕事です
IT担当の仕事の多くは、突然やってきます。パソコンが壊れた、ネットが繋がらない、メールが送れない——予定できません。
でも、退職対応は違います。 あらかじめ日付が決まっている、数少ない「準備できる仕事」です。
だからこそ、手順書を作る価値があります。
私は従業員10名ほどの会社で、11年ひとりIT担当をしています。今は決まった手順書があります。ただし、最初からあったわけではありません。失敗して、そこから作りました。
この記事では、その手順と、作るきっかけになった失敗を書きます。
大前提:「いつ知らされるか」がすべてを決めます
私の会社では、退職の1ヶ月前に知らされます。
これは、かなり恵まれた状況だと思っています。1ヶ月あれば、打てる手はほぼ全部打てます。
逆に、直前に知らされる会社では、この記事の内容の半分は実行できません。
もし今、あなたの会社で「退職者が出たあとに知る」という状態なら、技術的な対策より先に、そこを変える交渉をしてください。
総務や上司に、こう伝えればいいと思います。
「IT側の手続きに1ヶ月かかるので、決まった時点で教えてください」
これは、わがままな要求ではありません。会社を守るための、業務上の必要です。
実際に困ったこと(ここから手順書ができました)
チェックリストの前に、私が実際にぶつかった2つの問題を書きます。この2つが、手順書を作る理由のすべてです。
① その人しか知らないパスワードがあった
退職された後で、「あのサービスのパスワード、誰も知らない」という事態になりました。
小さな会社では、必要になった人がその場で契約し、そのまま個人で管理する——ということが普通に起きます。悪気はありません。仕組みがないから、そうなるだけです。
そして、その人がいなくなった瞬間、誰も入れなくなります。
② 必要なデータが取り出せなかった
もう一つが、データの取り残しです。
業務で使っていたファイルが、その人のパソコンの中だけにある。共有フォルダに置く決まりがなかったので、そうなっていました。
退職後に気づいても、もう手遅れです。 本人に連絡して協力を仰ぐしかありません。
この2つに共通しているのは、「退職の日に対応しようとしても遅い」ということです。だから、1ヶ月前から動きます。
チェックリスト
① 退職が決まったら(1ヶ月前〜)
この時期にやるのは「棚卸し」です。 止めることではありません。
- [ ] その人が使っているアカウントを洗い出す
- [ ] その人しか知らないパスワードがないか確認する ← 失敗①
- [ ] その人のパソコンにしかないデータがないか確認する ← 失敗②
- [ ] 本人名義で契約されているサービスがないか確認する
- [ ] 各種通知の宛先が、その人のアドレスになっていないか確認する
最後の2つは特に重要です。放置すると、退職後もその人のアカウントに会社の請求や警告が届き続けます。 うちでも実際に、退職者名義の契約が見つかったことがあります。
本人がいるうちに聞けるのが、この時期の最大の利点です。 「他に自分しか知らないものはありますか」と、直接確認してください。
② 最終出社日まで
ここで「移す」作業をします。
- [ ] データを共有フォルダへ移してもらう
- [ ] パスワードを台帳に登録する(本人に聞いて、こちらで記録)
- [ ] 本人名義の契約を、会社名義に変更する
- [ ] 通知の宛先を、こちらのアドレスに変更する
- [ ] メールの引き継ぎ先を決めておく
契約の名義変更は、時間がかかることがあります。 サービスによっては本人確認が必要なので、本人が協力できるうちに始めてください。
③ 最終出社日
この日にやるのは「止める」ことです。
- [ ] 貸与品を回収する(パソコン、スマホ、鍵、カード類)
- [ ] アカウントを停止する
- [ ] メールの転送設定をする
ここで一つ、大事なポイントがあります。
削除ではなく、まず「停止」にしてください。
いきなり削除すると、中のデータも一緒に消えます。 後から「あのメールを確認したい」となったとき、取り返しがつきません。
停止しておけば、本人は入れないけれど、中身は残ります。 これが安全なやり方です。
④ 退職後
- [ ] 一定期間おいてから、アカウントを削除する
- [ ] パソコンを初期化する
- [ ] 台帳を更新する(誰が何を使っていたかの記録を消す)
うちでは借りているパソコンを使っているので、初期化してからレンタル元に返却しています。
初期化は必ず自分でやってください。 「返せば向こうで消してくれるだろう」は危険です。会社のデータが入ったまま外に出ることになります。
初めてやるときは怖いかもしれませんが、調べればやり方は書いてあります。 私も11年前、最初の仕事がまさにこれでした。
手順書は、表1枚で十分です
ここまで書いたことを、立派な規程にする必要はありません。
私が使っているのも、チェックボックスが並んだ表1枚です。退職者が出るたびに、それをコピーして使います。
大事なのは体裁ではなく、忘れないことです。忙しいときほど抜けるので、頭の中に置かないでください。
まとめ
- 退職対応は、準備できる数少ない仕事です。手順書を作る価値があります
- いつ知らされるかが最重要。直前に聞く体制なら、まずそこを変えてください
- 1ヶ月前は「棚卸し」、最終日までに「移す」、最終日に「止める」
- 特に確認すべきは、本人しか知らないパスワードと、本人のPCにしかないデータ
- アカウントは削除ではなく、まず停止
- 返却する機器は、必ず自分で初期化
最後に一つ。
退職対応で一番役に立つのは、普段からの記録です。誰が何を使っているか、何に契約しているかが分かっていれば、退職の連絡を受けてから慌てずに済みます。
地味な台帳作りは、こういうときに効いてきます。
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